竹内公太「Parallel, Body, Possession」
会期:2021年3月19日(金)-4月17日(土)(日、月、火、水、祝日は休廊)
会場 : SNOW Contemporary


1 炭鉱労働者の無縁仏 Tomb of Coal Miners Who Have No Living Relatives, 2012, ink on paper

地元の人々に炭鉱労働者の無縁仏を見せて頂いた。福島県いわき市に移住するきっかけとなった。

2 “石碑を二度撮る”より'漁業' 'Fishery' from “Take Stone Monuments Twice”, 2013-2016, C-print, frame

『近代いわき経済史考』(1976、斎藤伊知郎)に掲載された写真を元に、福島県いわき市にある石碑120 基を訪ね、再撮影を試みた。そのうち漁業に関する石碑をセレクトした。左から順に「魚霊碑」魚の霊を祀る石碑、「小名浜御陣屋跡之碑」江戸時代の役所の石碑、「改良鰹節之碑」鰹節加工業の石碑、「四倉魚市場記念碑」市場の再建についての石碑、「白襷隊記念塔」商港の工事予算を巡る大衆運動の石碑。

3 ドローイング2011-2017 Drawings 2011-2017, 2011-2017

4 東京電力福島第一原発スケッチ 02 Sketch of TEPCO's Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant 02, 2014, pencil on paper

ある大学の研修に同行する形で、久ノ浜の石井宏和さんの漁船に乗せてもらい、復旧作業中の原発を海から見る機会があった。写真で撮るばかりではなく、たまには手を動かすべきなのではと思って、揺れる船の甲板で素早く描いた。体感的な大きさや距離感は手描きの方が分かりやすい気がした。

5 三凾座の解体 Demolition of Mihako Theater, 2015, gelatin silver print, frame

震災でダメージを受けたいわき湯本の劇場「三凾座」が2013年に解体される様子を、映画館のスクリーン側から定点撮影した時の記録。この時の映像や映画館のスクリーン、ベンチを用いた映像インスタレーションをいわき市久ノ浜の森美術館で発表した。

6 四ツ倉の洞穴 Cave in Yotsukura, 2015, C-print

福島県浜通り地方の沿岸部にはいくつもの”穴”が点在する。柔らかい地質なのか、手彫りの穴は貯蔵庫になっていたり、物置になっていたりゴミ捨て場になっていたりする。そうした穴を見つけては時々入っていた。こちらは地域の歴史に詳しいSさんに見せてもらった四ツ倉の穴。穴の中にさらに入口がありかなり深い。

7 大津港の防空壕 Air-raid Shelter in Otsukou, 2015, C-print

茨城県北茨城市の大津港はかつて風船爆弾の放球地があった。また米海軍による艦砲射撃もあった。地元の人に山中の防空壕を教えてもらい、入ってみた。

8 ヘルメットにビデオカメラ Helmet with Video Camera, 2013, ink and pastel on paper, C-print

洞穴や防空壕のほかに、常磐炭鉱の石炭を運ぶ軽便鉄道トンネル跡を探索したこともあった。暗い穴の道を歩く体験、私はいつからか過去と現在を身体や映像を通して行き来するイメージを持ち始めた。

9 Re:手の目のためのドローイング Drawing for Re:Te-no-me, 2015, ink on paper, C-print

2015年「Re:手の目」と題して、シリコン製の手と風景画を組み合わせた作品を発表した。この時の試作品の写真と、構想ドローイングの組み合わせ。妖怪「手の目」を参考に、シリコンで型どりした手のひらにLED光源を挿し入れ、その光のキワに沿いながら風景ドローイングをした。手を使ってものを見る、ものを見せるという人間の特性を意識し始めた。

10 手の目たち Te-no-me-s, 2015, ink on paper

妖怪「手の目」の現代版を考える。暗がりを照らす炎からスマートフォンまで、新旧のハンドデバイスは「手の目」のようだ。

11 コウモリのスケッチ No.29 Bat Skeching No.29, 2019, pencil on paper

風船爆弾取材の中でドローン撮影をしていた自分をコウモリに喩えていたが、実際のコウモリの姿をたくさん見たくて上野動物園に行った。空中を素早く動くコウモリをスケッチするのは難しい。羽の動きなどは目で捉えられないほどで、黒い塊が縦横無尽に駆け巡る。エコーロケーションをする飛行生物ということで興味を持ったが、逆さまでぶら下がるところも不思議な生態だが、それも暗闇への適応の一つなのだろう。

12 風船爆弾基地跡でのセルフィ― Selfie at Balloon Bomb Launch Site, 2017, ink on paper, C-print

大津港の風船爆弾放球地では1944年の11月3日に3人の兵隊が事故で亡くなった。5メートルほど浮かんだ風船が落ちてきて、くくりつけてあった爆弾が爆発したという。私はドローンで風船爆弾の地を撮影するより前に、ゴム風船にビデオカメラをくくりつけて「自爆事故の再現」撮影を試みていた。兵器に搭載された”自死するカメラ”にも興味があった。木にかかり空中で割れた風船から落ちたビデオカメラには失敗したセルフィ―写真のようなフレームが数瞬あった。

13 エノラ・ゲイでのセルフィ― Selfie on Enola Gay, 2017, C-print

スミソニアン航空宇宙博物館に展示された「エノラゲイ」。運転席は巨大な目玉のようだ。そこに映る自分の影を撮影した。この半年ほど前、祖父が航空機パイロットでエノラゲイに乗る予定だったが、別のパイロットに変わった、という人に会った。すんでのところで歴史的な人となったかもしれない人の孫と対峙した自分の心の動揺に自分で驚いた。

14 盲目の爆弾のためのドローイング Drawing for Blind Bombing, 2019, ink on paper, inkjet on paper

2017年から2018年にかけて、アメリカの風船爆弾の着弾地を訪ねて撮影していた。攻撃側がその行く末を直接見ることがないというこの「盲目の爆弾」の、架空の視線を撮影するという行為のイメージを描いた。

15 アッツ島の風船を追う Following the balloon near Attu, Aleutian Is, 2019, inkjet on paper, C-print, ink

米国立公文書館には米軍情報部の記録文書が保管されている。風船については目撃や撃墜の報告がたくさんあり、研究されて書類にまとめられていた。プリント部分はアッツ島の近海で発見された風船が撃ち落とされた事例の紹介。写真は千葉県一宮(風船放球地のひとつ)の海。

16 41 カスケード、モンタナ 2/12/45 41 Cascade, Montana 2/12/45, 2017, ink on paper

17 80 レイクベイ、ワシントン 2/28/45 80 Lakebay, Washington 2/28/45, 2017, ink on paper

18 13 ナパ、カリフォルニア 1/5/45 13 Napa, Calfornia 1/5/45, 2017, ink on paper

かつて風船爆弾が飛来した町の航空写真をトレースしたドローイング。安易にドローンで撮影する前に、手を動かすべきではと思った。この時はまだ米軍の記録文書にある詳細な情報を見ておらず、町の名前からGoogleEarthでそれらしい風景を探して描いたが、闇雲であった。

19 エコーシューティング Echo Shooting, 2019, bat doll, camera

記録文書を手がかりに風船爆弾が見たかもしれない風景を撮影するのは、75年ごしのエコー(反響)のようだ。コウモリは超音波でエコーロケーションをして飛ぶが、私のドローン撮影はいわば、エコーシューティングというべきものだ。小型ドローンのカメラを剥がし、コウモリの人形にくっつけた。

(20 参考文献:『日々の新聞』第388号 reference: ”Hibino Shinbun” No.388, Apri.l 30th 2019)
いわきの地方紙『日々の新聞』の安竜昌弘記者が竹内の「盲目の爆弾」について記事を書いてくれた。

21 James L. Acordを追って Following James L. Acord, 2017, C-print, ink on paper

ハンフォード・サイトは米国ワシントン州東南部にある核施設群で、原子爆弾を開発するマンハッタン計画においてプルトニウムの精製が行われた場所である。その後の冷戦期間にも精製作業は続けられた。現在は稼働していないが、米国で最大級の核廃棄物問題を抱えており、除染作業が続けられている。風船爆弾が送電線に触れて炎上したために、プルトニウムを精製していた原子炉が瞬間的な停電をするという出来事もあった。かつての原子炉跡だけでなく、高速中性子束試験施設FFTFや重力波検出施設のLIGOなどの科学研究施設もある。
1990年代にこの地に住んだ彫刻家ジェームス・L・アコードは放射性物質で彫刻作品を作ろうとした人物だ。一定量以上の放射性物質を個人で扱うためのライセンスを取得し、界隈の科学者コミュニティに入って講演会やラウンドテーブルを開催した。核と文化というテーマで調査研究を続けるエリーカーペンター氏や、テクノロジーとアートの実戦者であるエヴァ&フランコ・マッテスからこのジェームスアコードの伝説や記録を見聞きした私は、原子力災害を受けた日本では難しくなってしまった知的ユーモアを羨み、芸術と科学の橋渡しをする人間性に惚れ、そして究極の彫刻という情熱を持つ彼にあこがれを抱いた。風船爆弾のリサーチで米国を旅しながら、ハンフォード近隣に立ち寄り、彼の住んだ町やスタジオだった場所、彼が訪問した場所を訪れた。朝早く車を走らせ、Wikipediaに掲載されている彼のポートレート、同じFFTFの前に立って私もポートレートを撮影した。
※事務スペースにイギリスの芸術組織「Arts Catalyst」が発行したレアな参考資料があります。是非手にとってご覧ください。

22 evidens evidens, 2020, C-print

福島県の帰還困難区域で警備員をやっていた時、赤い誘導棒を振って光跡写真という手法で文字を描いた。誰もが主張の根拠を求め、あいまいな情報に振り回され、しかし何かの証拠を刻みたがるSNS時代を尻目に、私は星の輝く夜まで除染土を運ぶトラックに棒を振っていた。証拠を意味するevidenceの語源evidensは明らかにする、見えているといったニュアンスの語だ。vidensの部分はvideoとも重なる意味を持つ。私はビデオカメラやムービー再生装置を使わず映像作品は可能か考えていた。

24 エビデンス.otf文字一覧 evidens.otf character chart, 2020, inkjet on paper

誘導棒と光跡写真によって、アルファベットと数字と記号を描いて独自のフォントを作った。2020年夏にはこのフォントを使って展覧会をやった。巨大な復興事業やコロナ禍への応答として、リヴァイアサンの身体や、エイリアン席といった作品を作った。

23 ある公共彫刻について About a Public Art, 2008, single channel video 4min 49sec, mortar

ラブドール(空気人形)にモルタルを詰めて成形した像を公園に置く男の記録。当時は公共空間と個人の心の問題や、東京都の青少年育成条例のトピック、ヌード/ネイキッド表現の違いに注目していた。今にしてみれば震災前、メディアとしての映像と彫刻について考える前夜だったのかもしれない。

3 ドローイング2011-2017 Drawings 2011-2017, 2011-2017
各部説明

a. 「公然の秘密」のためのドローイング Drawing for "Open Secret" 2011
b. 常磐線ツーリズム Jouban-Line Tourism 2012
c. 海を見ている時、山は見えない When Looking at the Sea, Can't See the Mountains. 2013
d. 三つの凾 Three Boxes 2013
e. 周回、巡行、観光 Tourism, Sightseeing 2012
f. 海を見ているとき、山は見えない In Case Looking at the Sea, Can't See the Mountains. 2013
g. 向かい合う投影 Facing Projection 2013
h. 遠回りの観光 Detour Route Sightseeing 2013
i. 寄り目 Close-set Eyes 2014
j. 手の目 Eyes on Hands 2015
k. 歩きデバイス Device Zombie 2015
l. 映像が“石碑化”する可能性 Possibility That Video Images Will Be "Stone Monumentalized" 2013
m. 我たしハ石碑では無い I'm nOT a StOnE MOnumEnt 2013
n. 「変身」のためのドローイング Drawing for "Metamorphosis" 2016
o. スマホ映像無重力 Smartphone Video, Zero Gravity 2017
p. 風船爆弾の地の映像と鏡 Balloon Bombing Video and Mirror 2017
q. 放球台跡地と来場者の合成 Composition of Balloon Launch Site and Audiences 2017
r. プロジェクタカメラ Projector Camera 2017

s. 「三凾座の解体」のためのドローイング Drawing for "Demolition of Mihako Theater" 2013
t. 影の部分だけ映像がみえる Video Visible Only in the Shade 2012
u. 目隠し男 Blind Man 2013
v. ドローンの彫刻化=重力化 Drone Sculpting = Gravitization 2018
w. 忘力装置 Violent Forgetting Device 2012